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顔面神経麻痺と鍼灸治療

■ 顔面神経はどのような働きをしているの?

主に顔の表情をつくる筋肉(表情筋)を動かしています。それ以外に、内耳にある小さな筋肉(音量を調節する)を動かしたり、涙や唾液の分泌量の調節、舌の前3分の2の味覚の伝達も司っています。

 

 

■麻痺はどうして起こるの?

顔面神経は、顔面神経管と呼ばれる骨で取り囲まれた狭いトンネルを通って脳から顔面に出てきますが、何らかの原因(むくみや出血、腫瘍など)が発生し神経を圧迫してしまう事により麻痺が現れます。顔面神経麻痺は2種類あります。

・末梢性麻痺:顔の片方に症状が現れる

・中枢性麻痺:主に脳内病変(脳腫瘍・脳出血)による部分症状として出現する

 

ここでは、鍼灸の適応となる末梢性のマヒについて記載します。(中枢性は鍼灸の適応外です)

 

 

 

■末梢神経性麻痺の種類

・ベル麻痺

発生頻度が高く全体の6割強を占めます。主な原因は不明(特発性)ですが、考えられるものとして、単純ヘルペスウイルスの関与、顔面神経の栄養血管が低酸素状態になり浮腫が起こるなどがあります。誘発要因としては、冷えによる血の循環不全、ストレス、中耳炎、風邪がきっかけになる事があります。男女差、年齢層、特定の季節などはあまり関係がなく、何の前ぶれもなく急性発症し、顔半分が歪んで思うように動かせなくなります(仮面のような顔)。

・ラムゼイ・ハント症候群

発生頻度は1割強を占めます。主に帯状疱疹ヘルペスウイルスの感染により、耳たぶや外耳道に水疱ができて耳痛を発症します。聴神経が侵されると難聴になる場合もあります。

・その他として、

ウイルスの感染、代謝疾患(糖尿病)、聴神経腫瘍、外傷性、手術損傷、耳炎性、全身性ギランバレー症候群などがあげられます。

 

 

 

■現れてくる症状は?

・額 しわ寄せができない
・眼の周り 麻痺側のまぶたや眼鏡筋がうごかないため、閉眼しようとしてもまぶたが閉じず白眼だけになる
・口 麻痺していない側に曲がる。麻痺側は、口角からよだれ-食べ物-水がこぼれ出る、食事では額の内側に食物がたまる、口笛も吹けない
・耳 麻痺に先立って耳後部が痛くなったり、顔面に違和感を覚えることもある
・聴覚 麻痺側が過敏になり、音が異常に大きく響く
・涙と唾液 分泌異常がおこる
・舌 前の3分の2の味覚が感じない

 

 

現代医学での治療法は?

発症直後には、副腎皮質ステロイド療法、抗ウイルス剤の点滴、星状神経節ブロックなどが効果的と考えられてます。その他、ビタミンB12やビタミンEなどの製剤が神経修復の促進に処方されます。明らかなヘルペスウイルス感染の証拠がない場合でも、抗ウイルス薬の投与で顔面神経麻痺が改善することもあるので、同時に抗ウイルス薬が投与されてるようです。また、閉眼しにくい場合、人工涙液を点眼して角膜を保護することが必要です。病院によっては顔面神経減荷術の手術を行うところもありますが、手術の後遺症を伴うなどのリスクもありまた因果関係がはっきりしないという場合は、検討されるようです。

 

 

鍼灸での治療法は?

当院では、鍼を用いて筋肉をゆっくり動かす施術、また、電気刺激も組み合わせながら麻痺した表情筋への血流やリンパの循環改善を図ります。体に比べて顔にある筋肉は血流が豊富ですので、できるだけ早い時期から鍼灸施術を始めることが大切で、とにかく筋肉を動かす事で栄養を運んだり、不要な老廃物を排除したりして神経の賦活性を高めていきます。特にベル麻痺に対しては鍼灸は有効率が高いとの研究報告もあります。

その為、当院での鍼灸施術の頻度は「週2~3回以上」「3か月から半年・1年」と集中して行っています。

 

 

予後は?

ベル麻痺は、比較的良好で数か月で快復する事も多くありますが、稀に1年以上という治療期間を経て完治する場合もあります。症状の程度、治療法、治療開始時期が遅れれば遅れるほど治りにく、後遺症が残ります。従って、麻痺が起こったらできるだけ早く治療を行うのがベストであり、発症してから半年前後までが回復するかどうかの勝負の分かれ目だと言われてます。

後遺症としては、口を閉じると目が一緒に閉じてしまう、熱い物や冷たい物を食べると涙が出る、口角の位置が左右ずれるなど、顔の左右差が目立つこともあり、人によっては、対人関係や社会的にも消極的になりがちになるなど精神的ダメージも現れる病気です。