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症例:腰痛について

腰痛、肩こりはたいへん良く見られる不調です。当院に来院されるほとんどの方が愁訴としてかかえていて、慢性的に痛みが現れている方が大半を占ています。腰部の疼痛については、原因によっては大病につながるような予後を大きく左右するものも隠れており、発生起序を明確にして、そのメカニズムについてきちんと理解し見極めて施術にあたらないとと改めて感じた一症例です。

 

 

症例

主訴:腰痛・背部の凝りと不快感

患者:Sさん 33歳(女性)

画像診断:椎間板症

既往歴:子宮筋腫、小児喘息、ぎっくり腰

 

全身所見:

血圧:110/62mmHg

脈拍:75回/分

食欲:いつもと変わらず、大食い

睡眠:約5時間

体調:疲れやすい 午前中から眠たい感じがある

生理:28日周期、月経前日から激痛が3日間続く

飲酒喫煙:無し

体質:痩せ型、汗かき

 

病歴:

娘が小学校に入学したのを機に、10年ぶりにママさんバレーを始めた。 筋力もだいぶついてきて試合にも頻繁に出られるようになってきた3年目の冬、試合中に方向転換しながらジャンプした際、着地に失敗して腰を痛め、受診した整形外科で「椎間板症」と診断を受けた。左右共に1週間は痛んだがその後左側はすぐに緩和したので、右側のみシップを張りながらすぐに運動を再開した。それからは、寒い体育館では体が温まるまでは激しい動きは避けるなど体を気遣いながら過ごしていたので痛みが再発する事はほとんどなかった。

しかし、一年が過ぎ翌年の冬が近づくと、冷えのせいか腰からお尻、股関節から下腿にかけてむくみが頻発するようになった。また、月経前になると腹部にかけてさらに痛みが悪化するようにあり、あわてて近くの整骨院を受診したら、「運動のし過ぎによる筋疲労」と言われ、さらに「頸骨がずれている」との事だったので、電気と首の牽引の治療、干渉波、物理療法を週1回3ヶ月ほど受けた。一旦は緩和したようにも感じたのだが、やはり症状はほぼ変わらず。現在は、さらに臀部から右大腿部後面にかけて走るような痛みとしびれが現れ、今に至っている。

 

 

腰痛について

 

腰痛のうち画像診断で原因が特定できるものは1-2割程度で、主に、腰椎が傷害される圧迫骨折、椎間板の損傷、ヘルニア、脊柱管狭窄などが上げられます。

さらに、①腰椎を直接傷害しているのか、②腰椎は傷害していないが周辺にある臓器の神経を刺激されて発症しているのかも特定していきます。

①の場合は、椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄、骨折、骨に細菌感染した、がんの転移といった命にかかわる危険な病気も含まれます。

②の場合は、子宮筋腫など婦人科系の病気、胃潰瘍の痛み、尿路結石、解離性大動脈瘤などの病気が上げられます。

 

原因が特定できない8割強のものは、

①身体的:姿勢の悪さ、運動不足、肥満、冷えなど
②心的:ストレス過多、不安、不眠など
③神経の障害:見た目では分からない 神経の障害、坐骨神経痛

 

これらの原因から、鍼灸の対象となりえる症状かどうかを見極めていくことが大切です。

 

 

 

私が行った見解と施術内容

 

当院に来られた時はすでにそれから3ヶ月以上が過ぎており、お身体の状態は臀部と下肢の疼痛がさらに増していたのと、また、生理周期に伴い骨盤周辺の痛みが悪化していたので、婦人科系の病気の関連痛も考えられたので、まずは、施術に入る前に病院で命に関わるような病気が隠れていないかの検査をしていただくようお願いしました。

 

その後、鍼灸の対象となりましたので施術を開始。

Sさんは、鍼灸治療は始めての方だったので。初回は最低限の刺激で鍼に慣れていただく事を目的に進めました。

腰部については筋肉の炎症による痛みと神経の痛み(神経障害性疼痛)があったので炎症が落ち着くまで1週間は運動をお休みしました。その後、1年前に椎間板症を起こしたL3周辺と痛みを発症している右股関節周辺の筋肉の硬化を取る為の施術、また、臀部から下肢にかけての痛みは坐骨神経痛と判断し、障害を起こしている部位を検討し施術をおこないました。頚骨のずれに関しては画像診断で陰性だったのと、自覚症状が無かったので、鍼灸施術は行いませんでした。

 

鍼灸施術

腰部の筋肉が強張っている部位L2、L3、L4周辺の深層筋に置鍼

臀部:梨状筋と周辺の臀筋に低周波鍼通電刺激※1と遠赤外線センサー※2

下肢:ハムストリングに低周波鍼通電刺激

 

 

 

自宅でのトレーニングは、 痛みが強い場合は安静にし、また、痛みが強くなる動作は避けるようアドバイスしました。運動を実施すると再度痛みが出現するこ とが多いい時は、専門家による適切なリハビリを行なう事が大切なので、その時は、安易なアドバイスは避けました。

通院期間の1年間の間に、外気温が0度をきった極寒の日に痛みが悪化する事が1度ありましたので、その時は、低周波鍼通電刺激※3と遠赤外線センサー※4、を行い早急に対処しました。

その後は日に日に回復、下肢の冷えとむくみが現れる時は、血液循環の改善を目的に、置き鍼を足三里、三陰交、漏谷、膝裏、に加えて経穴経絡治療を組合わせたり、下肢のリンパドレナージュを行いました。

 

 

※1※2 1Hzの低周波鍼通電刺激と遠赤外線センサーを組合わせる事で、内因性オピオイドの一種であるβ-エンドロフィンの分泌を促進させて、下行性痛覚抑制系を賦活して疼痛緩和を相乗的に高める鍼灸施術

 

※3※4 70Hzの低周波鍼通電刺激と遠赤外線センサーを組合わせる事で、内因性オピオイドの一種であるエンケファリンの分泌を促進させて、下行性痛覚抑制系を賦活して疼痛緩和を相乗的に高める鍼灸施術

 

 

 

最後に

Sさんは、婦人科系の症状もありましたので、内臓の関連痛も疑いながら、また、熟睡できていないような所見もありましたので、日常生活と寝具の見直しをするなどのアドバイスもあわせて行いました。

椎間板症は、適切な処置を施せば軽快することが多いようですが、痛みが長期間続いてしまう場合や下肢麻痺、尿の出が悪くなるなど悪化した場合には手術を行う場合もあるそうです。また、そのまま放置すると腰椎椎間板ヘルニアに移行する場合もあるので、早期の判断と適切なアドバイスと治療が重要となります。